「マス・マーケティング」は、すべての消費者を対象として、大量生産・大量販売・大量プロモーションを単一製品について同じ方法で行うことです。
しかし、「マス・マーケティング」は生産志向や販売志向が流行した時代のマーケティング戦略です。現在では、ほとんど使用されません。
「ターゲット・マーケティング」は、市場を様々なセグメントに区分し、これらのセグメントのいくつかを選択・集中化し、それぞれの標的市場に合わせたマーケティング・ミックスを展開すること。
「ターゲット・マーケティング」は、「市場細分化(セグメンテーション)」「市場ターゲッティング」「市場ポジショニング」の3つの視点で考えます。
まず、市場を細分化する手法を、「市場細分化(セグメンテーション)」と言いますが、「市場細分化」をするときに使うターゲット変数には4種類の変数があります。
地理的変数(ジオグラフィック変数)
人口統計的変数(デモグラフィック変数)
サイコグラフィック変数(心理学的変数)
行動変数
「地理的変数(ジオグラフィック変数)」では、国や地域、市町村という地理的単位に細分化してターゲッティングします。必ずしも地理的に細分化してターゲッティングする必要はなく、日本全国やアジア全域という単位でも問題ありません。
「人口統計的変数(デモグラフィック変数)」では、年齢や性別、家族構成、所得というような統計的な要素に基づいたターゲッティングをしていきます。
「サイコグラフィック変数(心理学的変数)」では、価値観やライフスタイル、こだわりといった要素に基づいたターゲッティングをします。自然派であるとか、高級派といったカテゴライズが考えられます。
「行動変数」では、ベネフィット(利益・便益)、使用率(大口・小口)、ロイヤリティ(忠誠度)、購買状況に基づいたターゲッティングをします。○○を買うことでステータスを感じるであるとか、○○のブランドが好きであるといった忠誠度、あとは自分用なのかギフト用なのかという購買時の状況によるカテゴライズをしていきます。
「地理的変数」と「人口統計的変数」は、客観的かつ数値化できるような2次情報で構成される変数です。一方、「サイコグラフィック変数」と「行動変数」は、主観的な変数であり、実際に詳しくリサーチしてみないと出てこない1次情報によって構成される変数です。
さらに「市場細分化」をするにあたっては、いくつかの前提条件が存在します。
測定可能性:測定することができるのか。
到達可能性:効果的なアプローチが可能であるか。アプローチ困難であればターゲッティングしない。
維持可能性:維持する必要があるものなのか。
差別可能性:差別化が可能であるかどうか。
実行可能性:本当に効果的なマーケティングが実現できるかどうか。良いものを安く届けることができるか。
「測定可能性」と「到達可能性」ですが、そもそも測定困難な消費者をターゲットとして絞り込む必要はありません。例えば、東京に観光に来る中国の○○地方の消費者というのは測定困難ですし、効果的にアプローチすることも困難です。ターゲットをそこまで細分化する必要はないということになります。
「維持可能性」については、マーケティングやセリングの基本的な考え方は、売れ筋商品をより多く販売促進していこうという考え方です。よって、小口ユーザーに関しては、マーケティングの対象外となることがほとんどです。
「差別可能性」というのは、20代と40代とで年齢層などによる差別化が必要であるかどうかといった条件です。特に分ける必要がなければ、細分化する必要はありません。
「実行可能性」は、そもそも本当にマーケティングする必要のある商品やサービスなのかというところになります。社運を賭けたプロジェクトであるとか、既存の売れ筋商品であるという場合にはもちろんマーケティングを実行する必要性が高まりますが、かといって品質の悪いものを高い値段でしか売れないような状況なのであれば、それをあえてマーケティングすることは逆効果に繋がってしまいます。
これらの条件に基づいてマーケティングを実行するかどうか、どのような層にどのようなマーケティングを実施していくのかを選択した上で、選択した標的市場に向けて集中的なマーケティング活動を実施していくことが基本となります。
次に会社としてどのような「マーケティング・ミックス」を展開していくのかというところの戦略が「市場ターゲッティング」です。大きく分けると 「無差別型マーケティング」 「差別型マーケティング」「集中型マーケティング」の3種類の手法があります。
「無差別型マーケティング」は、企業が単一の「マーケティング・ミックス」による「全市場浸透(フルカバレッジ)」で、多数の製品で多数の市場をカバーするマーケティング手法です。常に大きな市場を狙うことによって、大量生産による規模の経済性を活用して、生産コストや流通コストなどを抑制することも可能です。
「無差別型マーケティング」の内容は、「マス・マーケティング」とほぼ同じ内容ですから、現在ではほとんど目にすることはありません。例として挙げるならばコカ・コーラ社は、想定されうる年齢層や世帯層、地域やライフスタイルなどのカテゴリをほとんど網羅しており、様々な飲料を製造・販売するフルカバレッジを安定的に実現しています。
「差別型マーケティング」は、企業が一つ一つの市場セグメントに対応した「マーケティング・ミックス」を開発して、アプローチしていくパターンですが、「選択的専門化」「製品専門化」「市場専門化」という3種類のパターンがあります。
「選択的専門化」は、標的市場ごとに一種類の商品を展開するパターンです。例えば、ライフスタイルや趣向や家族構成から、ファミリー向け、スポーツ向け、エグゼクティブ向けというセグメントに分けて、各セグメントに異なる「マーケティング・ミックス」を展開していきます。ブランド名を流用できるという強みはあるものの、セグメント間におけるシナジーなどは期待できません。同一ブランドを使用していたとしても、スポーツ向けは評判が良いけれども、ファミリー向けはからっきし評判が悪い・・・ということもありえます。
「製品専門化」は、複数の標的市場に向けて、汎用的に使用可能な単一の製品を展開していくパターンです。例えば、「携帯電話(スマートフォン)」は、一つの製品で幅広い年齢層や年収層をカバーすることが可能な製品です。職業や地域もほとんど関係ありません。マーケティング面では「学生向け」に絞った広告を打ち出すようなこともありますが、それも一時的なキャンペーンという枠組みに抑えられます。しかし、携帯電話がガラケーからスマートフォンに主役交代してきたように、代替するテクノロジーが登場すると、それまで培ってきた技術力やブランドとしての強みなどをすべて失うこともあります。
「市場専門化」は、単一の標的市場に向けて、複数の製品を展開していくパターンです。これは、ファッション、靴、アクセサリーが当てはまります。手軽なファストファッションやミドルブランド、高級ブランドやオーダーメイドなどに分かれており、ブランドの数も数え切れません。中小の服飾企業でも一社の中に多数のブランドを擁しています。また、それぞれの一つ一つのセグメントに対して、多数の製品やラインナップを投入します。しかし、セグメント間での消費者の移動が発生することは稀で、標的市場のお財布事情に売上が左右されやすいという特徴もあります。
「集中型」は、単一の市場に向けて、単一の製品を展開していくパターンです。ほとんど多くの「中小企業」や「新規事業」はこれに当てはまります。一つの製品に事業の命運を任せることからセグメントがはっきりしていれば「マーケティング・ミックス」を一か所に集中しやすいものの、売上もセグメントのお財布事情や製品の良し悪しに左右されやすいという特徴があります。
次に「市場ポジショニング」です。これは自社製品の見直しや新製品の開発するときに、消費者から見た相対的な位置付けを分析する手法です。「価格」と「品質」といった軸や、「ブランド」と「顧客」といった軸で考えて考えたりすることがあります。
特に「市場ポジショニング」を重視する「ブルーオーシャン戦略」は、競争の激しい市場(レッドオーシャン)から抜け出して、未開拓の市場を創造することを目的とした戦略です。例えば、「1000円散髪」や「立ち食いステーキ」などは「ブルーオーシャン戦略」として取り上げられてきました。しかし、ブルーオーシャンは時間の経過とともに模倣され、やがてはレッドオーシャンに近い状況になってしまいます。よって、最終的にはポジショニングを重要視する必要は決してありません。
「標的市場」を選択するということは、マーケティングというよりもビジネスモデルの構築にも近いです。どういう媒体でマーケティングするのか、どういう層を消費者と位置付けるのか、消費者が抱えている課題は何か、どういう機能があれば課題を解決できるのかというところを深堀りしながら、この市場にはこの製品を、あの市場にはこういう製品をと考えていくところになってきます。
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